言葉には、私たちの生きる無秩序な世界をきれいに整理してくれたり、ぼんやりと目の前に繰り広げられている現象をくっきりと浮かび上がらせてくれる不思議な力がある。日々生活をしていて何となく気づいていたことが、それを与えられた瞬間、「ずばりそれだよ。私が見ていたものは、まさにそれなんだ!」と急にくっきりと像を結ぶことがある。そのような力である。

 熟練の大工が、木材を加工するために精度の高いノコギリやノミやカンナを駆使するように、一流の写真家が、被写体を鮮やかにとらえようと多様なレンズを使い分けるように、このコラム「言葉の道具箱」では、読者の方に現実をよりよく認識するための「道具」を獲得する手助けをしたい。そのようなことを目指して、私たちの生活圏で起こる出来事や公的な空間で繰り広げられる政治的・社会的なことがらを把握するための言葉=概念を紹介していこうと思う。

 第1回目は、「抑圧の移譲」と「無責任の体系」の二つを説明する。
 
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浅香 勇貴
1986年生まれ。西南学院大学文学部卒。京都大学文学研究科修士課程修了。 日曜コラムニスト、日曜読書家、日曜大工、日曜社会活動家、通勤電車内思想家、好事家。